琥珀色のなみだ~子狐の恋~ (ダリア文庫)
元都の武士・鐵(くろがね)×狐神・琥珀(こはく)
《感想》
成瀬かのさんの書かれる、強気で精神が柔軟な受けが好きです。しかもエロにも積極的だから、まさしくこれぞBLって感じなんですよね。私の中ではそんなイメージが出来上がっていましたが、本作は純愛でした。こういうのも、いいわぁ。
時代はおそらく平安時代。武士とか帝とか都とか、そういった言葉が一般的だった時代です。不穏な空気が漂うプロローグの後は、ほのぼの子育てシーンが続きます。
神様である琥珀は、本来なら感情を示すこともないような存在のはず。でも川を流されてきた登場シーンからして、いろいろと規格外でした。普通に物を食べ、泣いて笑って、そしてなにより鐵をひたすら慕います。
そんなほのぼのムードも後半になると一転、緊迫したシーンの連続に。鐵が前に仕えていた帝が琥珀の噂を聞きつけ、連れ去ろうとします。見た目は美しい帝ですが、腹の中は真っ黒なことを鐵は身をもって知っていたので、琥珀を守ろうと対立。琥珀を拾った山へ逃げ込みます。
それでも帝は火をつけて山狩りを決行。山の生き物、大好きな里の人々、そしてなにより鐵を守るために琥珀は神の力を使い、そして…。と、こんな内容です。
帝は自分の美しさや権力を良く知っていて、それを自分の欲望を満たすことだけに使うタイプ。自分に心酔してお気に入りだった鐵も、たった一度諌める進言をしただけで、騙して切捨てました。だから帝のその後はぬるく感じましたね〜。今までの悪行に見合った末路でも良かったのにっ、と鼻息が荒くなっちゃいました。
冒頭に純愛と書いたように、神様が相手だからか、子供が相手だからか、そういったシーンはほぼ皆無。山狩りの途中の超据え膳状態でも、鐵はキス(と見せかけて口移しで薬を飲ませた)で止まります。本当に好きだからこそ大切にしたい鐵らしい決断かと。それに昔話風の本作には、この程度がちょうどじゃないかな。
正反対の解釈が可能なエピローグは、もちろんいい方に解釈しました。10年分の鐵の想いが形になって再会できたら、素敵ですよね。作者さんのSSで読みたいところだけど、たぶん書かれないんじゃないかな〜。別の時代の狐神様の話なら、あり?その時に「言い伝え」みたいな形で読めれば最高かも。
狐神だから、人型になっても耳と尻尾は標準装備。もふもふ好きには堪らないイラストが続きます。狐の姿、赤ちゃん、子供、少年と、どれも素敵なんですよ。枠がきっちり描かれて、写真のような雰囲気が内容とぴったり合いますねぇ。本文、イラスト共に可愛くて切ない素敵な作品でした。
フロンティアワークス 2013-04-13