壁の中の嘘と秘密 (ガッシュ文庫)
高校生・花塚香司(はなづかきょうじ)×高校生・青山昴(あおやますばる)
《感想》
タイトルを見て連想したのは、ポーの「黒猫」。殺した奥さんの死体と一緒に飼い猫を壁に塗り込んじゃって罪がばれる、という超有名な古典ホラー小説です。夏だしアリかも、でも小椋ムクさんの表紙に怖さは感じないしなぁ、と勝手にイメージ設定して表紙を開きました。結果は、いつものごとく大ハズレ(笑)。怖くはないけど、切ないお話でした。
表紙折り返し部分の作者コメントにあるように、高校の寮の話です。でも学祭も寮イベントもなく、学校シーンに至ってはほぼゼロ。メイン登場人物が主人公達二人と教師が二人で、あとは友人の学生が一人と、家族やナンパした女の子がちらっと出てくるくらい。ルビー文庫の「タクミくんシリーズ」のような青春群像を期待したら、肩透かしになること間違いないのでご注意を。
話は花塚目線で進みます。今は立ち入り禁止の寮の屋根裏部屋に女の子を連れ込んでいた花塚は、天体観測をしていた青山とばったり鉢合わせ。口止め代わりに、バイトで夜遅く帰る門限破りの青山をこっそり寮へ入れることに。疲れる青山を見かねた花塚が自分のお金を貸したことで、2人は一緒に天体観測をするようになり、次第に花塚は強く惹かれはじめます。
ここから花塚の片想いに悩む青春が始まるのかと思ったら、青山は意外とすんなりOK。でも全てを受け入れるわけでもなく、言動もどこかちぐはぐで、やっぱり花塚は悩むことに。夏休みに「ペルセウス座流星群」を観測するために青山と一緒に寮で過ごすうちに、距離は近づいたように見えました。
ところがそう簡単にはハッピーエンドならないのが、BL小説。いよいよ流星群本番、という日に青山の事情を明らかにする出来事が起こります。花塚も青山も深く傷つきますが、まだ学生で壁に守られる存在の彼らには、ただ一度抱き合うことしかできませんでした。
でもご安心を。ちゃんと、その後が用意されています。このラストだけは、目線が青山にチェンジ。彼が花塚のことをどう想い悩んできたか、短いけど良く伝わってきます。壁の外で再会した彼らは完全な自由じゃないけど、悩んで苦しんだぶん逞しく成長していて、これから悩みながらも一緒に前を向いて歩いていくんだろうと思えるラストでした。
小さめの文字に厚みのあるボリュームで、読み応えは十分。でもなぜか、ここぞという盛り上がりに欠けたような印象も残りました。ラストのネタバレのシーンなんて最大の山場なんですけどね〜。言葉は妹に持って行かれたぶん、青山は態度で激情を表してますが、もっと言葉も欲しかったかな。
ところで、作中にでてきた「ペルセウス座流星群」は来週、8月13日(火)03時頃がピークの予想。観測するなら「12日(月)21時〜13日(火)夜明け」 になり、12日の場合はできるだけ遅い時間の方が見られる確率は高くなります。
今年はペルセウス座が北東の空に登り始める21時過ぎに月が沈み、絶好の観測日和。明かりのない暗い場所で観測するのが理想なので、自宅周辺が明るい場合はご家族で少し遠出してみてはいかがでしょうか。ちょうどお盆休みの頃ですから。
もっと詳しく知りたい方は、以下のサイトが詳しいのでチェックしてみてくださいね〜。
「国立天文台」ペルセウス座流星群
「ウェザーニューズ」ペルセウス座流星群