真夜中に歌うアリア (キャラ文庫)
人気声楽家・森上哲哉(もりがみてつや)×音大生・仲嶋聖也(なかしませいや)
《感想》
BL小説というよりも、耽美小説といったほうが雰囲気に合いそうです。これでイラストが笠井あゆみさんとかだったら、間違いなく耽美。
ラスト間際まで、自分の立場を確立できていない聖也はいろんな人に振り回されてます。家族や周囲や業界人など、親友以外はみんなそれぞれの利益の為に動いてます。森上も利益ではありませんが、自己の気まぐれというか退屈しのぎというか、結局は自分の為なんですよね。
特に歌は聖也にとって切り離せるものではなく、理想の具現のような森上に逆らえるはずもありません。手のひらで踊らされていることを知りながら、一時はそれに甘んじようとしていました。でも人間って変わる生き物なんです。
孤独を恐れていた聖也が「歌」を自分の武器として確固たる物にしたとき、森上から飛び立つことを選択します。待つ孤独よりも、武器を磨き追いかける孤独を選べるほど、強くなっていたんです。
今度は森上が待つ番になりました。歌でさえ愛するものではなく、今まで心底何かを求めたことの無い森上は、どう変わるんでしょうか。神の様な超越した存在であっても、森上も人間です。もっと生臭い感情を手に入れたとき、聖也になんて声をかけるんでしょうね。
実はこの話、聖也が旅立って終わっています。そう、森上の変化は読者の想像にお任せなんです…。この余韻のある(不親切ともいえる)ラストこそ、まさしく耽美小説じゃありませんか。最近のBL小説は、短編なんかでフォローしてくれるんですけど。あ〜、続き読みたい!留学編書いてほしいです。